水戸地方裁判所 平成8年(ワ)268号 判決 1997年4月21日
主文
一 被告浜野篤志は、原告に対し、金一一六万六六六六円及びこれに対する平成八年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告吉成宏亜は、原告に対し、金一一六万六六六六円及びこれに対する平成八年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
一 原告は、主文一ないし三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、次のとおり請求の原因を述べた。
1 茨城県信用組合(以下「県信」という。)は、昭和六一年七月一〇日有限会社常勝観光に対し金三〇〇〇万円を貸し渡した。その際、被告ら及び浜野潤は、右貸付につき連帯保証をした。さらに、浜野潤は、右貸金債権を担保するため別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)に抵当権を設定し、その旨の抵当権設定登記手続をした。
2 また、右各契約に際し、被告ら及び浜野潤は、茨城県信用保証協会との間で保証委託契約を締結し、同保証協会が県信に代位弁済した場合には、同保証協会は被告ら及び浜野潤に対し求償金請求権を取得することが合意された。
3 茨城県信用保証協会は、平成五年一〇月二〇日、前項の保証委託契約に基づき有限会社常勝観光の県信に対する第一項の貸金債務につき金六五六万九一九九円を代位弁済した。
4 原告は、有限会社浜野建設工業(以下「浜野建設」という。その代表取締役は浜野潤。)に対し、平成四年九月一一日、金四〇〇〇万円を貸し付けた。浜野潤は、原告に対し、同日、右貸金債務を担保するため自己所有の本件不動産を譲渡担保に供し、その後、右譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続をした。
5 原告は、平成六年二月一〇日、抵当不動産の第三取得者として、茨城県信用保証協会に対し、第3項の代位弁済による浜野潤に対する求償金請求権につき金三五〇万円を代位弁済し、その限りで浜野潤を代位する権限を取得した。
6 被告ら及び浜野潤はそれぞれ連帯保証人であり、浜野潤は物上保証人を兼ねるから、内部的には代位の範囲は均等分割となる(民法五〇一条五号)。
よって、原告は、第三者として茨城県信用保証協会に代位弁済した三五〇万円の三分の一にあたる金一一六万六六六六円について、被告ら各自に求償請求する。
二 被告らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり請求原因に対する認否をした。
1 被告浜野篤志
(一) 請求原因1のうち、被告浜野篤志が連帯保証したことは否認し、その余は不知。
(二) 請求原因5の事実は不知。
2 被告吉成宏亜
(一) 請求原因1のうち、被告浜野篤志が連帯保証したことは不知だが、その余は認める。
(二) 請求原因2のうち、被告浜野篤志が茨城県信用保証協会との間で保証委託契約を締結したことは不知だが、その余は認める。
(三) 請求原因3は不知。
(四) 請求原因4は認める。
(五) 請求原因5は不知。
(六) 請求原因6は争う。
三 左記の事実は、原告と被告吉成宏亜との間に争いがない。
1 請求原因1のうち、県信は、昭和六一年七月一〇日有限会社常勝観光に対し金三〇〇〇万円を貸し渡した、その際、被告吉成宏亜及び浜野潤は、右貸付につき連帯保証をした、さらに、浜野潤は、右貸金債権を担保するため本件不動産に抵当権を設定し、その旨の抵当権設定登記手続をしたこと。
2 請求原因2のうち、被告吉成宏亜及び浜野潤は、茨城県信用保証協会との間で保証委託契約を締結し、同保証協会が県信に代位弁済した場合には、同保証協会は被告ら及び浜野潤に対し求償金請求権を取得することが合意されたこと。
3 請求原因4の事実。
四1 《証拠略》によれば、県信は、昭和六一年七月一〇日有限会社常勝観光に対し金三〇〇〇万円を貸し渡したこと、その際、被告ら及び浜野潤は、右貸付につき連帯保証をしたこと、さらに、浜野潤は、右貸金債権を担保するため本件不動産に抵当権を設定し、その旨の抵当権設定登記手続をしたこと(請求原因1の事実)が認められる。
2 《証拠略》によれば、右各契約に際し、被告ら及び浜野潤は、茨城県信用保証協会との間で保証委託契約を締結し、同保証協会が県信に代位弁済した場合には、同保証協会は被告ら及び浜野潤に対し求償金請求権を取得することが合意されたこと(請求原因2の事実)が認められる。
3 《証拠略》によれば、茨城県信用保証協会は、平成五年一〇月二〇日、前項の保証委託契約に基づき有限会社常勝観光の県信に対する第1項の貸金債務につき金六五六万九一九九円を代位弁済したこと(請求原因3の事実)が認められる。
4 《証拠略》によれば、原告は、浜野建設に対し、平成四年九月一一日、金四〇〇〇万円を貸し付けたこと、浜野潤は、原告に対し、同日、右貸金債務を担保するため自己所有の本件不動産を譲渡担保に供し、同年一二月二二日、右譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続をしたこと(請求原因4の事実)が認められる。
5 《証拠略》によれば、原告は、平成六年二月一〇日、抵当不動産の第三取得者として、茨城県信用保証協会に対し、第3項の代位弁済による浜野潤に対する求償金請求権につき金三五〇万円を代位弁済したこと(請求原因5の事実)が認められる。
五 債務者所有の担保不動産の第三取得者は保証人に対して債権者に代位できない(民法五〇一条二号)が、これと異なり、物上保証人所有の担保不動産の第三取得者は、民法五〇一条五号の類推適用により、保証人に対して頭数に応じて債権者に代位できると解すべきである。けだし、<1>右のように解さないと、保証人から見て、物上保証人に対しては頭数に応じた代位しかできない(民法五〇一条五号)のに、たまたま第三者が担保不動産を物上保証人から取得したときには、この第三取得者に対して全額代位できることになるが、かような偶然の事柄で保証人の代位につき重大な差異が生じることになるのは不合理であるし、<2>民法五〇一条五号第二文は、物上保証人の担保不動産について第三取得者が生じたときは同条一号が「準用」されると規定するが、これを反対解釈すると同条一号所定の「第三取得者」は債務者所有の担保不動産の第三取得者に限定されることになり、さらに、同じ文言の同条二号の「第三取得者」も同じく債務者所有の担保不動産の第三取得者を意味するものであり物上保証人からの第三取得者を含まないとするのが文理的に正しいことになるし、<3>仮に、民法五〇一条二号の「第三取得者」に物上保証人からの第三取得者が含まれると考えると、物上保証人からの第三取得者は同号の規定により保証人に対して直接代位請求できないが、他方で右第三取得者は民法五六七条により前主である物上保証人に対し担保責任を追求できるし、この担保責任を果した物上保証人は右保証人に頭数に応じて代位請求できるから、結局右の考えは、物上保証人からの第三取得者に対し、保証人に対する直接の代位請求を否定する一方、物上保証人を経由する間接的で迂遠な請求のみを容認するものであって合理的でないからである。
してみると、本件においては、物上保証人浜野潤所有の担保不動産の第三取得者である原告は、連帯保証人である被告ら各自に対し、債権者茨城県信用保証協会に代位弁済した金三五〇万円につき、頭数に応じた三分の一ずつを請求できることになる。
六 以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中野信也)